常乃屋 木綿街道町並みシンポの前夜、松江に前泊し、東京からやってきたチャックを誘って「常乃屋」で飲んだ。いちども行ったことのない、そのジャズ喫茶は、県庁近くの旅館(廃業)の土蔵を改装した店である。1階はカウンター、2階は団体用のお座敷にしている。建物は古くみえる。古色の上塗りはしているものの、部材などの摩耗が激しく、小屋組も湾曲梁を使った古風なものだ。江戸時代に遡るのはまちがいなく、18世紀に入るもしれない。
カウンターの席につくと、硬くて太いギターのソロが流れていた。パット・マルティーノだ。カウンターの目の前に「Now Playing」という小さな衝立があって、マルティーノの『Undeniable』というライブ盤のジャケットが立てかけられている。
ギターを40年以上弾いている、と告白すると、マスターは、
「どのギタリストがいちばんお好きなんですか?」
と問いかけてきた。
「ギターという楽器はほんらい歌伴のために生まれたもので、ジャズという
ジャンルに向いていない。とくにソロをとる楽器としては迫力が足りない。
伴奏の楽器として最もふさわしい演奏をしているのは、フレディ・グリーン
かもしれませんね」
という持論を述べると、「なるほど」とかれは頷き、
「パット・マルティーノはどう思いますか?」
と質問を変えた。
パット・マルティーノは19歳でプロになった天才である。しかも、伴奏役のサイドギターをおいて、縦横無尽にアドリブを展開するソリストとして知られている。言ってみれば、ジャズ界における寺内タケシだね。Mr.リズムを評価した私に対するあてつけのようにも受け取れるが、
「いいギタリストですよ。代理コードとかテンションとか、
すごく新しいセンスを感じるギタリストですよね」
と答えると、
「そういう技術的なことはよく分からないんです」
と彼はぶっきらぼうに感想を述べた。代理コードが分からないと、ジャズという音楽は掴みにくい。
「40年以上ギターを弾いてきて、昨年の秋、初めてD♭7が
G7の代理コードになることが分かった」
なんて口走ると、ますます彼の顔は難しくなった(わたしにとっては実際、革命的な大発見だったんだけど)。

『Bags meets Wes』をリクエストした。数日前に書き記しているのだが(おそらくだれも気づいていないだろうけれど)、『Bags meets Wes』をアマゾンに注文したところLPが届いてしまい、そのアルバムは飾り物になってしまった(プレーヤは針が潰れている)。だから、リクエストしたのだ(ユーチューブにアップされている『
Bags meets Wes』は2曲だけ)。アルバムの全貌を味わえたのはありがたかった。が、CDが聴きたかったわけではない。大きなJBLのスピーカーを備えているのに、どうしてLPを聴かせてくれないのだろうか。
酒はベルギーのビールから始めて、赤ワイン(ハウスワイン)に変え、最後はアイラのカリラ12年にした。ここでも残念な出来事が発生した。カリラに大きな氷が入っている。シングルモルトはストレートで飲む酒だ。それは常識だと思っていたので、敢えてストレートだと言わなかったのだが、まさかロックで出てくるとはね。思い起こせば一年前、上海の
摩天楼で、同じ過ちを犯している。あのときも、カリラの12年だった。
土蔵の容量はジャズ喫茶に適している。都市の隠れ家としてふさわしい面積だ。自分もこのような店が欲しくて、前から構想しており、その店名は「バーニー・キャッツ」だとチャックに伝えた。
ただ、ジャズはLPで聴きたいし、シングルモルトは小さなグラスでストレートを舐めたい。
珈琲はインドネシアか海南島の豆を使い、紅茶葉はカトマンドゥとアッサムとディンブラとキームンぐらいは揃えようか。
看板娘をおくべきかどうか、少々悩んでいる。
- 2012/03/03(土) 01:34:07|
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