多賀城の金輪造営図と鹽竈神社の桜 5月1日、宮城県多賀城市の東北歴史博物館に足を運び、東日本大震災復興祈念特別展「神々への祈り-神の若がえりとこころの再生-」をみた。伊勢神宮、下鴨神社、出雲大社に加え、地元の鹽竈(しおがま)神社の史料等を展示している。最大の目的は、ご存じのように、出雲大社が全国に先駆けて突然出陳した「
金輪御造営差図の原図」を観察することである(大社宝物殿での展示は
タクヲのレポートを参照)。
「金輪御造営差図」原図の展示パネルと図録には以下のような解説があった。抜粋引用しておく。
金輪御造営差図(鎌倉時代) (略)今までは江戸時代に写されたと思われる図(写図)が公開されてきました
が、(略)虫食い跡などの位置・形状がほぼ一致することから、本図はその原本
と考えられます。(略)原本にはない文字記載は、中心の柱「岩根御柱」の下部
の記載と左側枠外にある「国御沙汰(くにのおんさた)」の二ヶ所です。「岩根
御柱」の下部の記載は(略)判読しづらいですが、
長八丈厚三尺五寸□□□(弘四尺カ)二(または三)寸
と見えます。
「国御沙汰」の「国」については出雲国(いずものくに)を指し、この本殿造営
に対する出雲国の関与を示しています。これは天皇の宣旨(せんじ)に基づき
出雲国内に賦課される一国平均役によって、造営費用が賄われていたことを
示しているものと思われます。つまり、この造営事業が中央の許可を得て、
出雲国一国をあげた一大事業であったことを物語っています。
本図の製作年代は、(略)出雲国一国平均役による造営、つまり宝治二年
(1248)まで行われていた造営の時代まで遡るものと考えられます。

「国御沙汰」については、今のところ言及を控えたい。
「岩根御柱」下部【図では上側】の「長八丈厚三尺五寸・・・・寸」は、向かって右側の「桁」字の下部【図では上側】に記す「長八丈厚三尺弘四尺三寸」に非常に近い。わずかに中央筋の「厚」が5寸長いだけであり、ともに桁行方向の土居桁寸法を示すものと思われる。ちなみに、原図では右側「桁」の寸法を縦方向に記すのに対して、写図では横方向に書いている。また、梁行方向中央筋の右外側には「□(長カ)八丈厚三尺七寸□(弘カ)四尺二(または五カ)寸」という同種の記載があり、これも土居桁の寸法とみるべきであろう。
一方、、「宇豆柱-岩根御柱-宇豆柱」筋の上外側に「玖丈」(九丈)の記載がみえる点は写図と同じである。この寸法は棟桁の長さと思われる。側桁については、土居桁と同じ八丈であるため省略したのではないだろうか。
わたしは拙著『出雲大社』(至文堂、2006)および編著『出雲大社の建築考古学』(同成社、2010)において、「金輪御造営差図」に描く出雲大社本殿は境内遺跡で出土した大型本殿よりもひとまわり大きい、という意見を繰り返しのべている。上に示す土居桁や棟桁の寸法は境内遺跡出土の柱材との複合性という点で、あきらかに大きすぎるのである。したがって、「金輪御造営差図」に描かれた大社本殿がほんとうに存在したものであるならば、それは境内遺跡本殿よりも古い時代、要するに平安時代の本殿であった可能性を否定できないと考えている。
ただし、「引橋」だけはいただけない。「引橋長」までの字体と「一町」が違いすぎるし、「一町」の字間が狭すぎる。「一町」あるいは「長一町」は追記のように思われてならない。
博物館を離れ、十数年ぶりに多賀城政庁跡を訪れた(↓)。桜は散り始めだったが、風に揺れ、なお映えてみえる。正殿の階段に腰掛け、ミニストップで仕入れたお弁当をゆっくり味わった。


多賀城から北上して塩釜に至り、「神々への祈り」展で取り上げられていた陸奥国一宮の鹽竈神社を参拝した。鹽竈神社の手前には志波彦神社の境内もある。鹽竈神社は上賀茂神社と同じ本殿並列形式の社殿である。2棟の本殿は、じつは本殿と権殿(ごんでん=仮殿)であり、式年遷宮の本殿と仮殿が常置化されたものである。
参拝者はじつに多かった。志波彦神社・鹽竈神社は桜の名所であり、さまざま桜が咲き乱れている。あまりの美しさにシャッターを押し続けた。うち3枚だけ掲載しておく。
ここまでは、桜がただ麗しい花にみえた。石巻に至ると、それが微妙な存在に変わっていく。


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- 2012/05/06(日) 23:12:59|
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