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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

査 読

 昨年の7月、高校・大学の同級生で四国の大学に居る数学者K氏からメールがあった。

> ところでA氏がNature誌に下記のような論文を出したそうです。
 http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature12359.html*

 A氏は大学時代のサッカークラブのメンバーで、今は帝国大学理学部の教授。分子生物学の大家になっている。ヤマナカ先生との共著もあるようだ。わたしはそっけない返事を書いた。

> そうですか・・・Aさんの論文の偉大さについて、私にはさっぱり分かりません。

 論文の価値を貶めたいが故の発言ではない。自分の専門分野とあまりに遠いので評価できない、と言いたかっただけのことである。K氏の整数論も分からなければ、A氏の細胞生物学もさっぱり分からない。おそらくK氏も、A氏の論文内容を理解しているわけではないだろう。ただ、自然科学の世界では、「Nature誌に掲載」という事実が重要であり、その事実によって論文が権威づけられ、羨ましがられ、尊敬の念を集めているということだ。

 専門分野の細分化が進む昨今の学界では、一人の研究者がカバーできる領域はそうひろくない。民族建築/建築考古学関係のベテラン研究者は多くないので、こんなわたしにも年に数本、学会論文の査読依頼がある。極力引き受けるようにしている。大半は若手研究者の論文である。査読期間の1ヶ月など瞬く間に過ぎてゆくが、これもまた修行だと思うしかない。できるだけ「再査読」にまわさないようにしている。一次査読の段階で「採用/不採用」のケリをつけてしまうのである。再査読にして論文の質が向上すると見込める場合はそうするが、結果として内容に大きな改善がみとめられないなら2次査読で「不採用」にせざるをえない。できるだけそういう不幸な結末を迎えたくない。欠陥のある論文は早めに落として一から書き直していただく方が良いと思っている。
 わたしの所属する学会では、論文の査読者は2名で、1名のみ「不採用」の場合、3人めの査読者に審査を委ねる。セーフティネットだ。3名中2名が「採用」なら、論文は学会誌に掲載される。これまでの経験に照らすと、自分が「不採用」と判定した論文の80%は結果も不採用だった。残りの20%の論文は意に反して「採用」された。査読者が「不採用」と判定した論文が学会誌に掲載された場合、査読者は学会誌に異議申し立ての質疑書を提出・掲載できる。もちろん、そんなことはしない。一度もしたことはない。


 自分たちの論文を査読されることももちろんある。ASALABの場合、学生の卒業論文・修士論文・プロジェクト研究成果などを大学の紀要に投稿するようにしている。大学の紀要にも査読システムが確立している。「論文」なら学外研究者を含む2名、「報告」なら学内研究者1名の審査を受ける。卒論・修論の場合、基本的に学生の好きなように書かせるが、それを査読論文に変換するのは(残念ながら)私の仕事である。学生が執筆した論文の骨子を崩さないように全文を校閲する。いまLABLOG 2Gに連載している「出雲市青木遺跡の原始大社造に係わる復元的考察」も、ある女子学生の卒論を大幅に圧縮し校正したものである。この種の仕事は想像以上に過酷であり、エネルギーを消耗し、血圧が上がって頭が痛くなる。
 こうしてできあがった論文の著者は、次のような連名になる。「私学最後の紀要」となった第9号・第10号合併号を例にとってみよう。

   清水・中島・小林・浅川(2012)
  「鳥取市里仁古民家の改修計画 -医食同源の空間をめざして-」
  『鳥取環境大学紀要』第9号・第10号合併号:p.71-90

 論文等の業績はポイント制で評価される。その内規を公開するわけにはいかないので、仮のサンプルを提示すると、査読論文の場合、ファーストネーム【5点】、セカンドネーム【2点】、サードネーム以降【1点】のような序列になる。ファーストネームの著者が圧倒的にポイントが高いことが分かるであろう。知的財産の50%以上がファーストネームの著者に帰属すると考えてよい。こういうポイント制は大学当局が教員・学生の業績を評価する重要な指標になる。内容は問わない。学術誌に「掲載」されたか否か、フォーストネームであるか否か。門外漢の当局側からみれば、大事なことはそれだけだ。ちなみに、指導教員はほとんどの場合、ラストネームとなる。調査研究から論文作成、発表会に至るすべてのプロセスを指導し、全文を校閲する指導教員の評価ポイントは【1点】だけなのである。が、全プロセスに係わっている分だけ論文に対する責任は重い。指導教員がいちばん重いかもしれない。

 なんでこんなこと書いているのか。以下、箇条書きでまとめとする。

 (1)査読論文の知的財産の大半はファーストネームの著者に帰属する。それに対する責任も当然重いに決まっている。
 (2)若手研究者を指導したり支援した教員で論文に名を連ねる者の責任も重大である。「分からない」「知らなかった」ではすまされない。
 (3)論文の内容よりも、学会誌に掲載されたか否かが評価される昨今の学界情勢にあっては、査読者の責任もきわめて重い。

 いま大問題になっている「ねつ造」事件においても、(1)~(3)のすべてが該当する。ファーストネームの著者はもちろんのこと、共著者、査読者のすべてに過ちがあったという立場で検証を進めていただきたい。   

  1. 2014/03/12(水) 15:22:02|
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