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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

座談会「民族建築その後」(その6+)


大給(おおたび)の旅

 大給  ASALABに在籍していた2008-09年度、県環境学術研究費の助成をうけて「文化的景観の解釈と応用による地域保全手法の検討-伝統的建造物群および史跡・名勝・天然記念物との相補性をめぐって-」という調査研究が進められていました。
 浅川  科研のハロン湾調査の裏で、同時期に国内の文化的景観研究に取り組んでいたんです。おもな主題は二つあった。一つは「限界集落と文化的景観」、もう一つは「山岳信仰と文化的景観」です。
 大給  わたしは後者のほうと係わっていましたが、「岩窟/絶壁型の懸造仏堂」の系譜が主題でして、文化的景観は今城さん(現在は岡垣さんの奥さん)が修士研究で「山岳信仰と文化的景観」に取り組まれていました。わたしはその後、3年間、民間の会社で働いて、社会人入試で筑波大学大学院修士課程に進学し、文化的景観を専門とされる教授に指導を受けることになりました。筑波に行って感じたのは、世界遺産の文化的景観と、日本の文化的景観というのはちょっと質が違うなということです。
 浅川  それについては、岡野も今城も研究していたし、講義できっちり教えていますよ。
 大給  はい。修論の調査で、「石見銀山遺跡とその文化的景観」の中核である大森とか温泉津を見ていくと、日本の文化的景観は人の営みが見えることを重要視していると思いました。大森の人はその営みを見せて積極的に来訪者に発信しています。地元企業も町並み保全に理解があり、若者が大森に魅力を感じていきいきと働く姿を目にしました。銀山の産業遺産としての文化・景観を伝えていきたいという住民の気運の高さがありました。一方、温泉津は、人口減少に悩まされていますが、鄙びた温泉街が大きく変化することなく、町並みの歴史を伝えています。同じ世界遺産内の重伝建でも多少異なるようですが、日本の文化的景観は、やはり生活・生業に価値を見出している。世界遺産条約でも「文化的景観」が謳われていますが、こちらは自然との共生、生物多様性、無形遺産に着目した側面ももっています。もちろんワイン農園とか人間の活動によって「継続する景観」もありますし、日本でも文化的景観として共通して価値を認識され始めているのではと感じているところです。
 浅川  採用するか否か悩むコメントですねぇ。日本の文化的景観は、世界遺産の「継続する景観」に相当するんですよ。それ以外のカテゴリーは「名勝」や「史跡」でカバーできる。今のが筑波での修士論文の内容なの?少し大きい文字
 大給  「近現代における大森銀山の景観の変遷」が修論の題目でした・・・
 浅川  ・・・・・・
 栗原  筑波大の世界遺産コースでは海外調査にも参加されたんでしょう?
 大給  修論とは別なんですが、カンボジアのサンボー・プレイ・クック遺跡群周辺の調査に参加し、GPS受信機を用いて、村の全体配置図を作成する班に配属されました。まだ地図もできていない集落なのですが、GPSを使用して、各私有地の端点を測位して敷地境界線を明らかにしながら、現在に至る集落の形成プロセスをヒアリングしたのです。それをもう延々と何日も繰り返してデータを集めました。世界文化遺産登録をめざす構想範囲に入っている集落でしたので、今後の遺跡マネージメントに情報を活用できるようになれば、というのが目的の一つです。
 栗原  カンボジア以外では?
 大給  インドネシアでボロブドゥール遺跡の挙動観測に加わりました。写真測量変位プレートという鉄板を遺跡の各所に貼りつけて温度の日変化を記録するのです。それが熱とか地震とかで動いた状態を、写真と温度測定器でサンプル採取します。日本に持ち帰って、石材の動きを過去のデータと照らし合わせ解析するのです。
 浅川  保存工学だね、むしろ。 
 大給  測量もやりました。トラバース測量して、各基準点から測位し、前回調査からどのぐらい動いたかのか確かめるんです。
 浅川  筑波大の世界遺産コースともなれば、トータルステーションなど大がかりな器材を日本からもちこんで測量するんでしょ?
 大給  そのときはまだ予算がなかったみたいで、器材をもちこんではいません。現地スタッフとともに日本の測量手法を学ぼうということで、つまり一種の研修教育なのですが、現地機関が所有する1930年代製造のセオドライト(トランシット)を使用して測量しました。 【続】


  1. 2016/05/07(土) 21:19:51|
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