ここにいうU.S.A.とはアメリカ合衆国のことではない。ユナイテッド・サポート・オブ・アーティスツ。1985年のアフリカ飢饉救済プロジェクトのために集まったミュージシャンの集団名である。いうまでもなく、「ウィ・アー・ザ・ワールド」を大合唱した人たちであり、先日BSで特番があって最後の2分ばかり目にとまってから気になってしまい、以後、毎日のようにユーチューブを視聴するようになった。本当に素晴らしい曲だと思う。いったいどんなコード進行をしているのか、おんぼろギターを手にとり、確認めいたことをしてみたのだが、5つぐらいのコードでいけるのか、と思っていた。いまネット上でコード進行を確認すると、やっぱり結構複雑で、とくにベースラインと転調に工夫をこらしている。
https://gakufu.gakki.me/m/data/YK00620.html ちなみに、作詞・作曲はマイケル・ジャクソン&ライオネル・リッチ、編曲・指揮はクインシー・ジョーンズ。リードボーカルと呼びうるのはスティービー・ワンダーとレイ・チャールズであるが、その他だれがソロをとるのか、とらないかの選択は大変だったことだろう。こうしたリーダー格のアーティストがアフリカ系であるのは、サポートの対象がアフリカ大陸なのだから、当然と言えば当然だが、この集団ではマイノリティながらコーカソイドの有名ミュージシャンも名を連ねている。ボブ・ディラン、ポール・サイモン、ケニー・ロジャース、ビリー・ジョエル、シンディ・ローパー、ケニー・ロギンス、ブルース・スプリングスティーン等々のビッグネームがレコーディングにかけつけた。
白人系のなかで最も長尺のソロをとっているのはスプリングスティーンで、サビでのスティービー・ワンダーとの掛け合いは圧巻だが、それでもわたしはディランのほうが印象に残った。まず第一に、あれだけ人付き合いのわるい堅物が、こういう「みんなで仲良く一つになって」会に参加していること自体に驚きを禁じえない。ノーベル文学賞の授賞式でさえ欠席した男なんだから。それだけエチオピアの飢饉を深刻にとらえていたのだろう。メイキング映像をみると、わいわいやっている周囲に馴染もうとはせず、なんとも居心地が悪そうだが、自らのソロパートではクインシーらに対して「これでいいの?」と何度も問い返していて、十分真剣さがうかがわれる。
画面にあらわれるディランは神だ。神だと感じたのはマイケル・ジャクソンとディランの二人のみ。この二人の映る画面はあきらかに質がちがう。ポール・サイモンも居心地がわるそうだが、ディランほどではなかったかもしれない。ポール・サイモンの扱いはもっと大きくてよかったんじゃないかな。ほとんどの歌手が、オリジナルのメロディを崩して個性的な小節を効かせているなかで、譜面どおりの歌唱をしたのはマイケル・ジャクソンとポール・サイモンぐらいなものであり、清澄な歌声もマイケルに比肩しうるのはサイモンだけだろう。口直しのシャーベットのような役割を曲の中ほどで担わせれば効果があったろうにと思うのである。チャリティの寄付金がどうなったのか、よく知らない。それでも、これだけのミュージシャンが一同に会して合唱したというだけで奇跡的な出来事であり、不朽の名作として、これからも長く愛聴されていくだろう。
1985年-昭和60年、わたしは28歳でオーバードクターをしていた。
- 2019/06/14(金) 12:21:43|
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