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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

御所野から山田上ノ台へ

 御所野(岩手県一戸町)の桜は満開だった。今年の4月は寒かったそうで、花が開きはじめたのが、5月3日あたりからだったという。

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 今回、1年ぶりで御所野を再訪した目的は二つある。一つは昨年修理した大型竪穴住居の状況視察、もう一つは今年度復元する掘立柱建物の設計指導である。後者については、すでに3棟の建物をストーンサークル周辺に建てているので、それに倣えばよいのだが、問題は前者のほうである。
 6日に修復された住居をみて、正直なところ、面食らった。御所野では小型、中型の復元住居は内部の部材が真っ黒に燻蒸されて腐蝕の兆候をまったくみせていないのだが、大型の場合、容積が大きすぎて、煙の量が足りないらしく、部材は茶褐色に色づいてはいるけれども、炭素でコーティングされるほどには至っていない。また、屋根に被せた土の量が設計図よりもはるかに多く、垂木や木舞がその重圧に耐えきれなくなって折れてしまい、湿気の多い屋根土から水漏れがして、部材の腐蝕を促してしまった。今回それに対する処理として、
  1)とくに腐蝕の激しい桁から下の部分は垂木を隙間無く並べて、その上に樹皮を被せず直接赤土を被せた(樹皮が足りなかった)。
  2)桁から上については、垂木の上に樹皮を被せるのみ。
  3)雨仕舞のため、上側の樹皮を裾側の土屋根に被せるようにした。
 この結果、下にみるような外観に姿を変えてしまったのである。

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 高田館長に対して、以下の問題があると指摘した。
  a)屋根土の量を減らすことは必要なのだけれども、かりにこういう屋根構造であったとしたら、竪穴の中心部分が焼けて部材・焼土がほとんどない状況が確認されるはずだが、御所野西区の焼失住居では、炭化部材も焼土も竪穴の一面に残っている。
  b)周辺の復元住居との景観的不調和が生まれている。
  c)屋根土の下の垂木は箱状に並べているが、こういう出土例も確認できていない。
  d)土屋根に復元する住居においては、土と木材・樹皮が直接接しているところから腐蝕が進む。これを回避するためには、土と木材・樹皮のあいだに防水シートを敷くしかない。山田上ノ台で用いたデュポンのシートが通気性も排水性もあって有効であろう。
  e)屋根土の上に樹皮がかぶるのは不自然であり、あくまで樹皮下地の上に屋根土を被しているようにみせなければならない。その場合、たしかに雨仕舞が問題となるが、露出する樹皮は二重にして、その間に防水シートを隠すしかない。

 今日(7日)は御所野縄文博物館で簡単な打ち合わせをした後、高田さんと二人で二戸駅から仙台をめざした。昨年、高田さんには、わたしに代わって、山田上ノ台遺跡復元住居の原寸検査を担当してもらったことがある。今回は、二人で復元建物を見ようということになったのである。

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 山田上ノ台遺跡は、「仙台市縄文の森広場」として開館を7月に控えている。お馴染み吉岡さんとこのたび所長に就任された太田さんのお二人にご案内いただいた。御所野から山田上ノ台に場所を移すと、やはり「復元建物も進化している」と感じてしまう。御所野の成功と失敗を叩き台にして、復元建物の構造・外観・木割が修正され、目にみえない部分に強力な防水・防湿の配慮が隠されている。本日最高の驚きは、竣工したガイダンス施設からみた復元建物の景観であった。借景がみごとだ。新興住宅地に囲まれた遺跡であるにも拘わらず、ガイダンス施設の2階からみた復元ゾーンの背景にだけ林がめぐり、その遠方に熊野三山の高舘山(たかだてやま)が翳み望める。あまりに気分がいいので、この眺望スペースで、4人はテーブルに座って缶コーヒーを飲んだ。

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 富山の北代もそうだったが、整備前の山田上ノ台は宅地の中にある殺風景な空き地にすぎなかった。それが、こういう気持ちのよい景観ゾーンに変貌を遂げる。復元建物が市街地景観の質の向上に一役買っているとすれば、復元建物にはかすかなりとも存在意義をみとめうるのではないか。そう思い始めている。おそらく、田和山の大型掘立柱建物が契機になった。大型掘立柱建物の竣工後、田和山と宍道湖の景観が一変した。あきらかに景観の質が向上したのである。今回もまた、それと近い感触をおぼえた。
 「仙台市縄文の森広場」が近隣住民に愛される緑地になることを願っている。

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  1. 2006/05/07(日) 21:29:43|
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