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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

妙見三重塔と出雲大社

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 戦国時代の動乱期、出雲大社の境内は仏教寺院の色合いを強めていた。いつのころからか、浮浪山鰐淵寺との関係が緊密化して神仏習合が進み、尼子や毛利の戦国大名も大社の仏教化を加速させていった。そのクライマックスは、豊臣秀頼を願主とする慶長度の遷宮造替とされる。このとき本殿から宇豆柱(独立棟持柱)が失われ、本殿は出組の組物をもつ疑似仏寺様式に姿を変えてしまう。しかし、仏教による大社支配はまもなく終焉を迎えた。
 続く寛文度の遷宮造替では、「唯一神道」を標榜する廃仏化が境内全域で進行し、本殿も周辺諸社と近似する素朴な大社造に復古する。このとき境内に建てられていた三重塔が但馬の名草神社に移築された。これは近世出雲大社史における常識の一つであり、わたしも拙著(『出雲大社』)において、そのように記述した。ところが、厳密に言うならば、それは誤りのようである。
 但馬の工務店で働くタクオが5月4日に送信してきたメールと写真が、三重塔に対して抱いていた誤解を改めるきっかけとなった。まずはメールの原文を引用しておこう。

  「PS: 先週、妙見三重塔を見てきました。出雲大社の柱にも使われた
   という、大径木の妙見杉に囲まれ、ひっそりと厳かに佇んでおりました。」
 
 ここにいう「妙見三重塔」がいわゆる「名草神社三重塔」に相当するものであろうことは、なんとなく想像できる。『名草神社三重塔と出雲大社』(八鹿町教育委員会、1997)をひもとくと、山田宗之氏は「名草神社は中世から近世には妙見宮といって、肥後八代妙見・下総相馬妙見とならんで但馬妙見として日本三大妙見の一つに数えられています」と述べており、この理解は『町史』や観光パンフレット等の記載とも一致する。但馬妙見宮が名草神社になったとすれば、「大社の三重塔が名草神社に移築された」と叙述することに大きな問題はない。

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 ところがネットで検索したところ、「妙見宮=名草神社」を俗説として痛烈に批判するサイトを発見した。執筆者がよくわからないのだが、とくに以下の2つのサイトに先鋭的な批判を展開している。

 1)「名草神社」を巡る「俗説」批判
http://www.d1.dion.ne.jp/~s_minaga/myoken44_4.htm
 2)妙見三重塔、寛文の移転(移築)
http://www.d1.dion.ne.jp/~s_minaga/myoken42.htm

 著者によれば、「帝釈寺日光院妙見宮」「延喜式神名帳に記載のある名草神社(式内社名草神社)」「現在の名草神社(明治創建名草神社)」は全く別のものであるという。その根拠は以下のとおり。
 ○「延喜式神名帳」の「名草神社」には祭神・鎮座地の記載はないため、祭神・鎮座地は不明とするほかない。鎮座地が石原山<妙見山>であった可能性もないわけではないが、「延喜式神名帳」以降の消息も全く不明で、早い時期に廃絶したものと思われる。
 ○寺伝によると、帝釈寺は飛鳥期の創建とするが、定かではない。しかし、中近世には多くの文献などが残されていて、帝釈寺妙見宮及び妙見信仰は隆盛であった。
 ○豊岡県などの文献(布告など)によると、現在の名草神社は明治の神仏分離及びその後の国家神道の体系化によって、帝釈寺境内を包含して新しく創出された神社である。

 「鰐淵寺文書」によると、大永八年(1528)、尼子氏によって、出雲大社(杵築大社)の三重塔は境内に竣工する。それが寛文四年(1664)になって解体され、但馬の香住経由で帝釈寺日光院に運ばれて再建された。興味深いことに、妙見山には昔から塔があったらしく、老僧の言によると、天正年間頃に焼失したという(佐草自清「御造営日記」)。サイトの著者はこれを羽柴秀吉の兵火と関連づけている。大社から移築した三重塔は焼けた塔の復興を企図したものであった可能性が高いわけで、それはあくまで帝釈寺という密教寺院の境内において再建されたとみなさければならないであろう。
 詳細な検証を試みたわけではないけれども、きわめて説得力のある解釈だと思われる。尼子が建立した大社の三重塔は、名草神社ではなく、妙見山帝釈寺日光院に移築されたものであり、だからこそ「妙見三重塔」と今も呼ばれているのだろう。

  1. 2006/05/15(月) 04:16:52|
  2. 建築|
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