
やっかいな言葉にぶつかってしまった。「案山子」-カカシである。これまで紹介してきた多くの
植物名と同じように、中国起源の言葉に違いないと思っていたのだが、日中辞典を引いても訳語に「案山子」はなく、カカシに対応する現代中国語は「茅草人maocaoren」「稲草人daocaoren」となっている。「案山子」と書いても、中国では通じないのだろうか。
仕方がない。久しぶりに、諸橋轍次の『大漢和辞典』(大修館書店、全12巻)を引いてみることにしよう。これが重労働なんだ。ウカンムリは巻三の895頁か。残りは7画だから、・・・あれれ、どこにも「案」の字がない。角川書店の『新字源』で確かめてみよう。
そうかキヘンか。諸橋の大漢和でキヘンは巻六の1頁から。あれれ、「案」は6画になっている。巻六の327頁に「案」を発見した。「案」とは「つくえ」「だい」「ぜん」などをさす漢字だが、あわせて14の語義が示してある。「案山子」についての説明をみると、
かかし。田畠の鳥を追ふために立ておく人がた。とりおどし。山田のそほど。
案山は机のように平たく低い山で、山田のある所。
とあって、『景徳傳燈録』巻十七の「師曰、面前案山子、也不會」を引いている。『新字源』の解説もこれに近いが、さらに案山子を「山田を守る主」とする。そういえば、「山田の中の一本足の案山子・・・」という唱歌があったな。ネットで調べてみようか。
尋常小学唱歌『案山子』(作詞・武笠三/作曲・山田源一郎、明治44年)の歌詞は、以下のとおり。
1.山田の中の一本足の案山子
天気のよいのに蓑笠着けて
朝から晩までただ立ちどほし
歩けないのか山田の案山子
2.山田の中の一本足の案山子
弓矢で威して力んで居れど
山では烏がかあかと笑ふ
耳が無いのか山田の案山子
というわけで、「案山子」は日本人の造語ではなく、やはり中国の古い言葉であり、それが日本に伝達されて「山田」(案山)と結びつくイメージをもっていたことはあきらかであろう。現代中国人がその言葉を使わなくなってしまったから、日中辞典を引いても「案山子」がでてこないんだな。
それでは、なぜ「案山子」をカカシと読むのか。こんどは『広辞苑』を引いてみた。カカシはカガシとも言い、「鹿驚」の語をあてることもあった。もとの意味は「獣肉などを焼いて串に貫き、田畑に刺し、その臭いをかがせて鳥獣を退散させたもの」だというから、カガシ=「嗅がし」説が有力とされる。こういう焼き串が、機能を同じくする「田畑に立つ鳥脅しの人がた」の呼称に転じたのであろう。

環大道路の
稲刈り跡地には、たくさんの稲木が並んでいて稲穂を乾している。すでに脱穀が終わって稲木も片づきはじめているが、ある稲木列の前後に案山子が6~7体立っていて、ビアンキで通るたびに気になっていた。だって、ほかの稲木列にはどこにも案山子が立っていないのだから。
今日は思い切って、案山子に近づいてみた。いや、ひょうきんでおもしろい。いったいだれがこういう案山子を作ったのだろうか。Tシャツや帽子はまだ使えそうなものばかりで、遊び心や作意がない限り、これだけ愉快な案山子が田んぼに並ぶはずはない。ここに4例ばかり示しておく(名前はわたしが勝手につけたもの)。
で、案山子の機能はというと、稲木に乾した稲穂の籾を狙う鳥たちを遠のける役割以外に考えられない。撮影を終えてビアンキの元に戻ると、交通整理のおじさんから声をかけられた。たぶん近くの農村から雇われたバイトのおじさんだ。
「あの案山子は、あんたが作ったんかな?」
「ちがいますよ・・・撮影してただけですよ。でも、ここにしか案山子がないでしょ? なぜなんですかね・・・他の稲木には案山子がまったくないでしょ??」
「今はメッシュのシートで覆うことが多くなったけねぇ、案山子立てるのがめずらしいですけぇなぁ・・・」
ほんとに、いったい誰が案山子を作ったのか。気になって仕方ない。

↑↓ヤンキース


↑レレレ・・ ↓クアキトール

↓ひまわりハット

すでに倒れてしまった案山子も2~3体確認。


- 2006/10/13(金) 20:34:20|
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コメント:2
今年は、どうか分かりませんが、その昨年と一昨年に、幼稚園児が稲作の実習をしていた田んぼだと覚えています。
なので、案山子の製作者は、園児とその先生の合作ではないかと考えられます。
- 2006/10/13(金) 21:18:34 |
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- やっちゃん1号 #-
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幼稚園児なら理解できるね。この造形力は幼稚園児か小学生で、お母さんや先生が指導した可能性が非常に高い。また、恐れ入りました・・・
- 2006/10/13(金) 22:36:50 |
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- asax #90N4AH2A
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