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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

聖誕澳門(Ⅱ)

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↑聖ポール教会跡 ↓セナド広場
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 マカオ(Makau)は中国語で「澳門」と書く。その音声は北京語ではアオメン、広東語ではオウムンであり、いずれも「マカオ」に結びつかない。通説に従うならば、マカオの語源は「媽閣」(マーコ)であろうという。マカオ半島西南隅の岬に「媽閣山」がそびえ、その西麓に「媽閣廟」が境内を構える。埋め立て地のないころ、廟は波打ち際の山裾に位置していた。媽閣廟の主祭神は「媽祖」(マーソ)である。媽祖は阿媽(アーマー)とも呼ばれる。媽祖=阿媽は福建・広東周辺の漁民に信仰される「海の神様」。媽(マー)がオンナヘンの漢字であることから、日本でいう「海女」(アマ)に近い概念であろうことは容易に想像される。ならば、「媽祖」は海女の祖先と推定してよいであろう。
 マカオは古くは「阿媽港」とも記され、長崎などの日本人はこれを「天川」(アマカワ)と呼んでいた。「阿媽」(アマ)=天(アマ)=海女(アマ)という図式がここで成立する。どうして、こういう漢字の違いが発生したのか、というと、それは一つに日本で「媽」を「マ」と音読できないことによるであろう。日本語における「媽」の音声は「モ」もしくは「ボ」である。だから、媽閣はモカク(ボカク)、阿媽はアモ(アボ)と読まなければ間違いということになる。ちなみに注意したいのは、中国音の「マ」、日本音の「モ」「ボ」はいずれも「母」の含意があり、漢字としての「媽」は「姆」に通じる。

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↑媽閣廟の石牌坊 ↓弘仁殿の天后元君
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 マカオ半島の西南隅には、かつて海人たちが拠点とした媽閣(マーコ)と呼ばれるエリアが存在した。かれらは明朝初期(14世紀後半)に福建からこの地にやってきたと言われる。媽閣はかれらの居住域でもあり、媽祖をまつる祭祀域でもあったことだろう。それが、いまのような派手な寺廟的境内を構えるのは19世紀以降と言われる。媽閣廟は仏教や道教の要素を含む複合的な寺院構成をとる。正殿たる「天后廟」のほか、「正覚禅林」と「弘仁殿」には「天后元君」が祭られる。「天后元君」とは、海神(媽祖)の道教的な表現にほかならない。このほか、最上段に「観音閣」を設ける。「観音」はいうまでもなく仏教の観世音菩薩の略称だが、東南中国ではきわめて世俗的な民間信仰の対象であり、女性の化身ともみなされる。コロアネ島の聖フランシスコ・ザビエル教会では、聖母マリア像も「観音」として描かれている(↓)。

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 以上みたように、マカオとはどうやら「媽閣」の訛音であり、それは海人たちの拠点であって、かれらの祖先としての「媽祖」を共同で祭祀する領域を意味していたようだ。この文化のひろがりは広い。日本列島から東南中国・東南アジアの沿海にひろがる文化と言ってもおかしくない。だから、わたしたちが今夏調査したハロン湾の水上居民の信仰とも通じる。一方、海人はしばしば海賊に変身する。1513年、ジョルジェ・アルヴァレというポルトガル人が中国南部に上陸し、その後、「海賊の退治」に貢献して明朝より貿易が認められるようになり、マカオは貿易の中継基地としておおいに栄えた。ここにいう「海賊」こそが、マカオの先住民としての「媽閣」を含んだ海民たちであったのかもしれない。

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 今日のもうひとつの収穫は「石敢当」であった。これは2001年2月にはじめて来澳した際、しっかり確認していたものである。世界遺産として知られる聖ポール教会堂跡からセナド広場へ至る三叉路の屈折点に祭られる。詳しく記すと、大三巴街と賣草地街と高尾巷が交わる広場(ラルゴ)の端にその石敢当は祭られている。沖縄でみる石敢当よりも派手な小祠で、かつて福建・広東方面ではどんな町や村でもみることができたに違いない。通説では「魔除け」の装置であり、日本の「賽の神」と同様、隣接する領域の結節点=境界に設けられる。ただ、マカオでは、まだこの小路でしか石敢当を発見していない。

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 *連載「聖誕澳門」は以下のサイトでご覧いただけます。
   聖誕澳門(Ⅰ)
   聖誕澳門(Ⅱ)
   聖誕澳門(Ⅲ)
   聖誕澳門(Ⅳ)
   聖誕澳門(Ⅴ)






  1. 2006/12/26(火) 23:13:56|
  2. 文化史・民族学|
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