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鳥取環境大学 環境情報学部 建築・環境デザイン学科 浅川研究室の記録です。

田和山 竣工検査

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 昨年の10月16日以来、およそ4ヶ月ぶりに田和山を訪れた。大型竪穴住居の竣工検査である。11月10日の事件のために、途中から現場指導ができなくなっていた大型円形住居の完成した姿を、昨日(2月4日)はじめてみた。これまで送信されてきた写真をみる限り、越屋根がやや大きく感じられて心配だったのだが、やはり少し大きいと思った。前にも書いたかもしれないが、1/10模型を作り、原寸で骨組を組み上げて、ちょうど良いバランスだと判断していたのだが、茅を被せると越屋根が膨れてみえるから不思議だ。このプロポーションの責任はわたしにある。だから、もちろん修正など要求できるわけはない。唯一気になったのは、突き上げ窓と突き上げ戸のディテールである。板を2~3枚横繋ぎにしているのだが、その繋ぎ方がよくない。板の端にたくさん孔をあけて丸太の横桟で繋いでいる。孔に縄を通して左右の板を繋ぐ手法は、たしかに青谷上寺地で確認されているが、はっきり言って孔が多すぎるのである。

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 これには悩んだ。さんざん悩んだあげくでた答えは「蟻桟」である。田和山の大型竪穴住居は弥生中期、青谷上寺地の蟻桟の板も弥生中期であり、田和山は青谷に倣うのが最善の選択であろうと思うに至ったのである。蟻桟の寸法等のデータなら、ネット上の青谷上寺地建築部材データベースですぐに引き出せる。鳥取には悪いけれど、島根で日本初の蟻桟の杉板扉を復元しよう。否、青谷のデータベースをネット上で公開したのは、こういうふうに、全国の整備事業で青谷のデータを自在に活用していただくことを目指してのことなのだから、田和山が青谷のデータを活用するのはきわめて意義深いことである。全国で初めて復元整備事業に青谷上寺地建築部材データベースを活用した例として、田和山は歴史に名を刻むことになるであろう。

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 山頂にあがって、2棟の復元建物を含む景観をしばらくじっと眺めていた。昨年は、景観の大きな変化に驚きを隠せなかった。掘立柱建物が1棟建つだけで、宍道湖畔の茫洋としていた景観がぐっと引き締まったからである。さて、今回はどうなのだろう。昨年ほどの景観の変化を強く感じるわけではない。掘立柱建物の横に大型の竪穴住居を建てたことが良かったのか悪かったのか。心配になったので、建築デザインの途を歩む宮本に訊いてみた。
  「竪穴住居建てて、よかったのかな? それとも建てないないほうがよかったのだろうか?」
宮本はしばらく考えてから、
  「・・・建てて良かったんじゃないですか。」
と答えた。復元建物は、建物そのものの出来映えだけが重要なのではない。遺跡の中にある添景として、どれだけ史跡公園の景観の質を向上させているのか。わたしは、そちらのほうがむしろ重要だと思っている。昨年の眺望景観と見比べてみると、やはり建てたことは間違いではなかったようにも思うのだが、読者諸兄には、昨年3月3日のブログに掲載した眺望写真とみくらべて自ら評価していただきたい。

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 3年前に竣工した土屋根の竪穴住居は、酸性の強い赤土で覆われたせいか、草がなかなか繁茂しなかったが、ようやくイネ科の植物が越屋根まで埴えひろがってきた。ただし、段々畑のような植栽で、アイヌの段葺きに似ているからおもしろい。竪穴住居の形態は、昨年竣工した茅葺きの大型円形住居よりも土屋根住居のほうが上だと思う。ボランティアの方がたが週に3回燻蒸してくださることで、内部の部材も黒光りし始めている。屋根の防水シートや周堤下の防水壁も確実に効果を発揮している。

 田和山の整備に関わって5年がすぎた。わたしの仕事は終わった。嬉しくもあり、淋しくもある。いつか患者を田和山に連れていきたい。あの急傾斜の階段をトボトボあがるんだ。杖をつきながら、少しずつ少しずつ頂上をめざす。そして、山頂から復元建物と宍道湖畔の景観をぐるっと眺める。右目の視力を半分失った彼女はどんな感想をわたしに漏らすだろうか。
  「あなたは良い仕事をしたわね」
と言ってくれるだろうか。

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 視察日(↓)の前日(↓↓)は雪に覆われていたという。
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 ホカノのタクオは初めての田和山。
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  1. 2007/02/05(月) 22:35:28|
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