さきほど「すきや」でテイクアウトしてきた丼ものを息子と二人食べていたら、テレビで「国立循環器病センター」のニュースが流れ始めた。麻酔薬盗難事件が内部犯行だったというお粗末な顛末に、責任者一同お詫びするという映像である。
ことの発端は1月29日。センター3階の麻酔科の金庫に保管していた麻薬系鎮痛薬「フェンタニル」のアンプル30本がなくなっていたことが判明した。モルヒネの200倍もの鎮痛効果があるという麻薬である。金庫内にあったアンプル50箱(1箱10本入り)のうち、3箱がなくなっていることに麻酔科の医師が気付き、警察に通報したという。金庫を開けるためには鍵と暗証番号が必要で、鍵は同じフロアの麻酔科別室で保管しており、暗証番号は麻酔科の医師13人が知っていた。
その13人のなかに犯人がいたのである。ニュースによると、犯人は別の医師の名前で書類を偽造し、フェンタニルを持ち出そうとして、足がついたらしい。この麻薬には依存性があり、体が耐えきれなくなったのだろうか、あっけない幕切れであった。
じつは、今日の午後、吹田の国立循環器病センターに電話をしていた。ガンマナイフ手術をおこなった医師と話がしたかったからである。その医師は、家内が再び倒れたことを知らなかった。奈良の担当医と吹田の医師はべつの病院で同僚だったことがあり、患者の病状に関する情報を交換していたので、再発のことを知らないはずはないと思っていたのだが、彼女は知らなかった。
つい先日、患者は3ヶ月ぶりに吹田まで出かけてMRIを撮影し、その数日後に問診を受けていた。わたしは撮影時に吹田までついていったのだが、問診の日は大学の仕事が忙しく付き添えなかった。そして、その直後に脳内出血を再発させ、入院してしまった。
「脳動静脈奇形はあきらかに小さくなっているんです」
と、その医師は言った。
「先生は、たしか脳動静脈奇形から出血する可能性は数パーセントとおっしゃいましたね?」
「いえ、2~3%です。」
つまり、ガンマナイフの手術を受けなくとも、100人に97~98人の患者は脳内出血を発症しないということである。
「こういうふうに、断続的に出血を繰り返すということは、奇形部分が萎縮する際に血管が切れてしまうんじゃないでしょうか?」
と訊ねてみた。吹田の医師は断言した。
「いえ、そういうことはありません。」
強い否定の口調であった。しかし、奈良の医師の見解とはニュアンスがちがう。昨日記したように、奈良の医師は「そういう可能性もあるが、それを科学的に実証できるわけではない」という言い方をした。
大阪の医師の見解はこうだ。
「脳動静脈奇形のある部分で出血をおこすと、そこで出血を繰り返す可能性は高くなるんです」
「今回の出血場所は、前回とはまったく違うところでして、だから大きな障害がおきていない、と奈良の先生はおっしゃってますが。」
「えぇ、でも、いちど出血をおこした脳動静脈奇形が再出血をおこすパーセンテージは高いんです・・・」
大阪のドクターの言を信じるならば、家内はガンマナイフ手術をうけなくとも、出血をおこした可能性が高いことになる。100人のうちの2~3人のなかに含まれるわけだ。その可能性はもちろんある。
ただ、わたしは、どうしても言っておきたいことがあった。
「昨年十月の問診の際、わたしが付き添って行って、患者の症状が非常に悪化していることを強く訴えましたよね。坂道を下れないほど右足が麻痺していることをお伝えしたはずです。にも拘わらず、その次の定期検診は3ヶ月後の1月末のままでした。わたしは、どうしてもっと短いスパンで検査を繰り返してくださらないのか、不満でした。そう思っていたら、一ヶ月もしないうちに出血をみたんです。」
これには「えぇ」としか答えてくれない。
「ガンマナイフの放射線で奇形が完全に消えるまで、どれくらいかかるのでしょうか?」
「完全に消えるのは3年ですね、5年ぐらいかかる場合もあります」
「家内の奇形は大きいですけれども、完全に消えない場合もありますよね?」
「あります」
「そうなると、もういちどガンマナイフの手術を受けなければなりませんね?」
「そうなります」
「もういちど手術をするかどうかは、どのあたりで見切るんでしょうか?」
「いちおう2年が目途になります」
なんてことだろう。とんでもない持久戦に巻き込まれつつある。
- 2007/02/16(金) 00:44:17|
- 未分類|
-
トラックバック:0|
-
コメント:0